雪の渡り鳥「鯉名の銀平」観劇記
愛する者を救うため、銀平が長脇差を抜く!
時代劇研究家:ペリー荻野
親分の仇の憎い帆立一家相手に大暴れ。銀平のチャンバラはスピーディーで文句なくカッコいい。特に銀平は、浦田三十郎とともに読み書きと「北辰一刀流」の手ほどきを受けた経歴を持つ。“正統を知る渡世人”というのが、心憎いポイントだ。すっと正眼に構える銀平には、喧嘩殺法の他のやくざにはない品と色気が漂うのである。
だが、しかし。銀平には、父親譲りの「気の短さ」という欠点があった。
かつて銀平の父とともに渡世の道にいた茶店のおやじ五兵衛は、その欠点をよくよく知っている。娘のお市が銀平と相思相愛と知りながら、婿には銀平の弟分の卯之吉を選ぶのである。
怒る銀平に父としての思いを語る場面は、五兵衛の見せ場だ。しかも、そのとき、帆立一家との大出入りが迫っているのである。細かいところだが、五兵衛が卯之吉と語りながら、出入りのための足ごしらえをする場面はとてもよかった。桜木健一が、わらじの紐をきりりと締める所作は、何気ないが「次郎長三国志」など多くの時代劇を経験してきたベテランだからこそできたシーンだと思う。その桜木が、福田の姿を見て、かつて共演した鶴田浩二を思い出したという。鶴田浩二は昭和の大スターとして、「清水の次郎長」など、股旅ものや任侠ものにも多く出演。桜木は森の石松役で共演している。どこか憂いを帯びた二枚目、鶴田の姿は、確かに銀平の憂いと重なって見える。
銀平はお市をあきらめてから、年を経て、再び下田に戻る。人がいいからこそ、なかなか成長できない卯之吉。そのときのお市の変化も重要だ。飯窪のお市は、前半、ピンクの着物で弾む娘心を見せ、後半ではおとなの女としての強さを見せる。
そして終盤、銀平の亡き父も物語に浮上してくる。この話には、娘を思う五兵衛、銀平の父、銀平を教育した浦田の父、三人の父が背景にいる。その思いが、物語を奥深く、感動的にしているのだ。
福田は二度目の時代劇挑戦で、立ち回りの手数(殺陣での刀さばきや動き)が増えて努力したというが、よく走り、よく戦う。感情をたっぷり込めて、下田を去るシーンは必見だ。こどものころから大の時代劇好きだったという福田の気持ちがよく出ている。
明治座の初日。東京は四年ぶりに三月の雪景色で、「雪の渡り鳥」にふさわしい幕開きとなった。切ない男の旅立ちに、白銀がよく似合う。
(撮影:岩田えり)