長崎から日見峠を越えて二里半、海辺の網場(あば)で愛八(石川さゆり)は生まれた。
貧しい網場では、女の子は、成長したら長崎や博多へ芸者として売られていく。
愛八が長崎に売られ日見峠を越えたのは、十歳の夏だった。
それから四十年ほど経った大正十一年、春。愛八は、その芸の腕と座敷での土俵入りで、一目置かれる丸山芸者(山芸者)になっていた。子供が大好きで、辻占や花を売る少女がいたら売り物を全部買い取り、海軍の水兵を見かければ涙ぐんで大盤振る舞い、大相撲の巡業がくれば身銭を切って前相撲の力士たちを応援する愛八の気前の良さは、周囲の人間が半ばあきれるほどであった。
二年に一度の「東京大角力協會」巡業の日。愛八が、前相撲の子供たちの負けっぷりに腹を立てて歩いていたところ、町芸者の米吉(鶴田さやか)と肩がぶつかってしまう。
日頃から意地を張り合う山芸者と町芸者であり、また米吉が網場を見下したことに腹を立て、二人は人目も忘れ喧嘩を始める。そこへ仲裁に入ったのが、五島町の大店の跡取りで学者の古賀十二郎(近藤正臣)であった。その精悍な姿にひと目ぼれした愛八は、「どっちが勝っても長崎の恥」という古賀の言葉に、素直に従うのだった。
古賀に心を奪われた愛八は、料亭花月の女将・富美江(淡路恵子)の取りなしにも耳を貸さず、旦那と別れ、日々ぼんやりと過ごしていた。そんな時、花月で町芸者と山芸者を総揚げし、芸競べが行われることになった。そのお大尽は、なんと古賀。
愛八は三ヶ月ぶりの古賀との再会に胸をときめかせ、また古賀も、愛八の芸に惚れ込むのであった。胸がいっぱいになる愛八だったが、やがて札びらをばらまき、馬鹿騒ぎを始めた古賀に落胆する。しかしお開きになった座敷に、一人座り込む古賀を見つけた愛八は、その夜の総揚げが長崎の学者である古賀の東京の学者への意地の表れであることを知る。
身代をつぶしてでも意地を張り続ける古賀の姿に、愛八は自身を重ねた。
「長崎の古い歌を一緒に探そう」という言葉に、愛八は心からうなずく。
そして、二人の歌探しの旅が始まった。
二、 石川さゆりオンステージ
「津軽海峡・冬景色」「天城越え」「風の盆恋歌」など心ゆさぶるヒット曲の数々や、谷根千界隈が舞台の新曲「だいこんの花」をお贈りします。
“谷根千”とは、谷中・根津・千駄木周辺エリアのこと。
今年5月に亡くなられた作詞家の吉岡治氏は、昭和の面影が色濃いこの界隈をこよなく愛し、石川さゆりのために、音楽劇「夕焼けだんだん物語」を書き下ろしました。
今回、オンステージで情緒豊かにお届けします。
可憐に、妖艶に、珠玉の名曲の数々をたっぷりとお楽しみください!
1.朝花
2.ウイスキーがお好きでしょ
3.転がる石
4.夕焼けだんだん
★夕焼けだんだん物語
5.クラブ・キャッツ
6.追憶のバラード
7.続・夕焼けだんだん
8.女磨くにゃ・・・・・・(ラップ)
9.トンガラガッテ・ソング
10.夢のチカラ
11.北の女房
12.大阪つばめ
13.夫婦善哉
14.酔って候
15.だいこんの花
16.津軽海峡・冬景色
17.風の盆恋歌
18.天城越え
※曲目・曲順に変更のある場合がございます。ご了承ください。
また公演期間中、谷根千界隈では「石川さゆりの谷根千めぐり」として、イベントも開催中です。
ジャケット写真の展示 吉岡氏自筆の歌詞