昼の部 午前11時開演
伏見稲荷の鳥居前には兄の源頼朝から疑いをかけられた源義経(隼人)の一行がいる。都落ちする義経の後を追って静御前(米吉)がやって来るが、同行の願いは却下される。やがて武蔵坊弁慶(種之助)が駆けつけるが、義経は、弁慶が堀川館に押し寄せた鎌倉方の軍勢を討ち取ったことを軽率な行為だとして憤っている。だが、静御前の執り成しによって、弁慶は義経の供を許される。
その後、義経は後白河法皇から拝領した初音の鼓を静御前に渡すと、後を追わないように静御前を梅の木に縛りつけて参拝に出かける。そこへ鎌倉方の早見藤太(吉之助)がやって来て、静御前を捕らえようとするところ、義経の家臣佐藤忠信(歌昇)が現れ、これを助ける。忠信の手柄を知った義経は、褒美として鎧と源九郎の名を忠信に与えて西国へと出立する。静御前の守護を命じられた忠信だが、どこか不審な様子で・・・
三代名作のひとつである『義経千本桜』は、延享四年(1747)に大坂竹本座で初演された時代物です。全五段の内、二段目にあたる『鳥居前』では、様式美に溢れながら、忠信の荒事の立廻りや、狐の本性を見せる狐六法などが見どころの一幕です。平成生まれの若手たちによる清新な競演をお楽しみください。
太郎冠者(染五郎)は主人の大名某(高麗蔵)とふたりで、西宮の戎神社に、妻を得たいと願掛けの参詣にやって来ました。ふたりが祈願するところ、夢のお告げがあり、釣針が与えられます。早速、大名が釣竿をさげると、世にも美しい上﨟(壱太郎)が釣り上げられ、これを見た太郎冠者は、自分も美しい妻を娶りたいと釣竿をさげます。やがて手応えを感じた太郎冠者が釣竿をあげると、醜女(亀鶴)がかかり・・・
『釣女』は、明治三十四年(1901)に東京座で初演された常磐津による歌舞伎舞踊です。作者は河竹黙阿弥、作曲は六世岸澤式佐。狂言の『釣針』をもとにしたこの作品は、わかりやすくユーモラスな内容ですが、演者には松羽目物としての品格も求められる舞踊です。
見どころは太郎冠者と醜女とのやりとりで、嫌がる太郎冠者を慕う醜女の愛らしさが可笑しみと共に表現されます。大名と美女、太郎冠者と醜女という対比も面白く、誰もが楽しめる微笑ましい舞踊です。本興行では初役で勤める演者たちの顔合わせも注目の一幕をご覧ください。
江戸の池の端の待合茶屋に引越して来たのは、艪屋の清吉(染五郎)と女房おちょう(壱太郎)。金に困る夫婦のもとへ米屋の勘助(歌昇)が引越先まで催促しに来るので、家主の六右衛門(歌六)がこれを追い払う。実は、清吉夫婦は義理ある主人の難儀を救おうと、紛失した御家の一軸を突き止めたが、請け出す金子がなく苦心していた。これを聞いた六右衛門は、美しい女房を使って大名から金を巻き上げる策略を伝授するので、清吉夫婦はこれを承諾する。
そこへ侍の横島伴蔵(亀鶴)がやって来るので、おちょうを使って間男騒動を起こす清吉。慌てる伴蔵は自分の荷物と店の物入を取り違えて逃げていく。やり損なった清吉は、侍の荷を枕にして一眠りすることにする。
やがて目を覚ますと、そこは大坂の鶴の池にある善右衛門の別宅。奇病にかかる善右衛門(歌六)から見初められた清吉は、十二萬両という小遣いをもらい、さらにひと月に萬両の金を遣わないと大臣にさせられてしまう。金の遣い道に困った清吉は、金を遣おうと出かけていくが・・・
三世桜田治助による『邯鄲枕物語』は、通称「艪清の夢」とも言われるように、艪職人清吉が見た夢物語が展開する作品。大金の遣い道に困り果てる清吉の姿をユーモアに見せることで、栄枯盛衰の人生ドラマを明るくほのぼのと描きます。
本興行としては、明治三十八年(1905)の明治座での上演以来となる珍しい復活上演。清吉を勤める染五郎をはじめ、それぞれ個性溢れる登場人物たちが魅せる洒落っ気たっぷりの芝居をお楽しみ下さい。