2017年に各地で大評判を呼んだ『夫婦漫才』。いよいよ明治座公演が開幕しました。テレビドラマから演劇まで幅広い知識を持つコラムニストのペリー荻野さんが『夫婦漫才』を観劇。「3パターンの楽しみ方ができる参加型の演劇」とは!? その魅力を語ります。
(文・ペリー荻野)
ハイ、笑いました~!ハイ、泣きました~!また笑いました~…って、忙しいな、どっちやねん!!と、突っ込まれそうですが、ホント、笑って泣いてというお芝居が多々ある中で、この「夫婦漫才」は、その決定版と言ってもいいくらい。明治座の客席のあっちゃこっちゃで笑い声としんみり涙があふれていました。
しかも、ただ「いい芝居」だけじゃないことに気がつきました。なんと「3パターンの楽しみ方ができる参加型の演劇」なのです。最近、映画館では、名場面で観客が歓声や拍手、指笛まで鳴らす「応援型」の上映が増えていますが、この「夫婦漫才」もなかなかのものです。
参加の仕方、その1は、主人公の信子(大地真央)と伸郎(中村梅雀)の夫婦コンビ、「横山伸郎・信子」の漫才のファンになること。なにしろ、夫婦喧嘩が面白すぎて、漫才コンビにスカウトされた二人です。息はぴったり。大地流マシンガントークVS梅雀下がり眉毛。想像しただけで笑えますが、実際に見てみると、さらに可笑しい。考えてみれば、大地真央は、淡路島出身で関西弁のネイティブ。上方漫才のしゃべくりでは、イキイキとして見えます。加えて、次々登場するチャーミングなドレス。まさに水を得た真央さん。また、途中、梅雀はベースギターを弾く場面も。ベーシストとしても活躍する梅雀もとってもイキイキしている。演技力に関西弁、ベースという得意技が加わった最強のふたりが舞台に立つ。私たちはそのステージの観客になって、大いに笑って拍手できるわけです。
二つ目は、長屋の隣人としての参加。
ふたりは、信子が生まれたおんほろ長屋でずっと暮らしています。住民と大家さん(お笑い界のレジェンド、『かしまし娘』の正司花江)は、困ったときは助け合い、いいことがあった時はともに喜び、哀しいことがあったときはともに泣く。こんな生活ぶりを見ているうちに、なんだか自分たちも隣人のひとりになったような気がしてきます。木造アパートや長屋に暮らした経験のある方なら、懐かしさもひとしおのはず。お芝居は、昭和7年から、戦争を経て、大流行したダッコちゃん、大阪万博や阪神優勝、漫才ブームなども織り込まれ、あの頃の自分は…と、懐かし心がくすぐられます。と、同時に「あんたの横にはいつもうちがおる」こんな言葉に、平成も終わろうという今だから胸打たれる。大事な人には、自分をむき出しにして素直に寄り添ってもいい。ちょっと勇気ももらったりして。私は昭和のころ、苦労した自分の両親にも、SNSで人との距離に悩む友人にもこのお芝居を見せたいな~としみじみ思いました。
そして三番目は、お芝居の観客としての参加。
作品の原作者は、大阪出身のクールな二枚目俳優豊川悦司。また、脚色はドラマ「TRICK」「忘却のサチコ」などで個性的な役を演じ、「ちょっと出てるだけでも、とっても気になる」俳優でもある池田テツヒロ。演出は近年、話題の作品を数多く手がけているラサール石井。三人の個性がぶつかると演劇はこうなるかと新発見した気持ちにもなります。「夫婦漫才」が、博多座はじめ、各地で大人気になったというのも納得です。おもろい夫婦が、今回は東京、大阪、東北の各地を回って、どんなことになっちゃうの!? 心配したり、慰められたり、あらら、すっかりこの夫婦の友人気分。もちろん、これも楽しい。
「みんな、うちの美貌のおかげやで!」
信子にオチをつけられちゃいました。
ペリー荻野 プロフィール
1962年愛知県生まれ 大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼放送作家として活動開始。現在はコラムニスト・時代劇研究家として毎日新聞、中日新聞、時事通信など新聞・雑誌・webで連載中。NHKラジオ第一「マイあさラジオ」隔週土曜日出演中。最新刊「時代劇を見れば、日本史の8割は理解できます」(山本博文氏と共著・徳間書店)、「脚本家というしごと~ヒットドラマはとうして作られる~」(東京ニュース通信社)